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インタビュー INTERVIEW 
トム・フォード監督自身が語る最新作『ノクターナル・アニマルズ』
   11月3日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開         
人気ファッション・デザイナーのトム・フォードが映画監督としても名乗りを上げたのは2009年。英国人作家クリストファー・イシャーウッドの原作を自ら脚色して映画化した『シングルマン』は、パートナーを失った悲しみから逃れるために自らの命を絶とうとする男のその一日を追った作品で、人気デザイナーの映画進出ということもあって大きな反響を呼んだ。
あれから7年を経て登場した監督2作目の『ノクターナル・アニマルズ』。オープニングから衝撃的な映像で始まる本作品は、ある小説が劇中語られるという二重構造になっていて、それを通して描かれる復讐劇に見えるが、どうだろうか。トム・フォード監督自身が自作を語っている。        (2017年10月20日 記)

『ノクターナル・アニマルズ』は、人生の中で私たちがなす選択がもたらす結果と、それを諦めて受け入れてしまうことへの、警告の物語です。すべてが、人間関係すらも、あまりに安易に捨てられる廃棄の文化にあって、この物語は、忠誠、献身、愛を語ります。私たちみなが感じる孤独、私たちを支えてくれる人間関係を大事にすることをめぐる物語なのです。

      ――トム・フォード――

                                                             撮影中のトム・フォード監督
<原作小説と映画の間で>

■原作の「ノクターナル・アニマルズ」は見事に書かれた偉大な物語です。「小説の中の小説」という形で語られる人間の心に関する寓話、というコンセプトが新鮮で独創的でした。読んだ瞬間気に入り、これはすごい映画になると感じました。とはいえ脚色するのにやさしい小説ではなく、アプローチの仕方を決定するのに時間がかかりました。小説と映画は違うものであって、小説の文字通りの解釈は映画ではうまくいかないことがしばしばです。私にとっては自分に訴えかけてくるテーマを取り上げることが重要で、スクリーン上でそれを強調し発展させるわけです。その意味で映画は、いくつかの物語要素がオリジナルで、設定が実際の小説と違っていても、小説に忠実なのです。

■小説では大部分がスーザン(エイミー・アダムス)の心の中で起こる内的モノローグです。彼女が心の中で感じている感情を伝えるために場面を構成しなければならないわけですが、映画全編にわたってヴォイスオーヴァーを使用することなく、視覚的にそうしなければならない。加えて、エドワード(ジェイク・ギレンホール)の基本主題は小説の中ではいささかあいまいなので、スクリーン上でそれを明確にするため誇張する必要がありました。
また小説の舞台を変える必要がありました。小説は90年代初め、携帯電話の普及の前に書かれているからです。小説の中心となる犯罪の方法は、場所を変えない限り、携帯とネットのある今日の世界では起こりえないものです。そこで物語の場所を西テキサスにしました―原作では北東部で起こるのですが―というのも、あのあたりには、携帯サービスがないだろうと思える場所がまだまだあるのです。そこはわたしがよく知っている場所でもあり、古いことわざ「自分の知っていることを書け」に従ったわけです。

■わたしたちはみな、あるフィルターを通して物事を見ており、そのフィルターこそがわたしたちの存在そのものなのです。エドワードが虚構の物語「夜の獣たち ノクターナル・アニマルズ」を書くとき、その感情と細部は、彼とスーザンとの過去からつくり上げられている。細部のほとんどはわたしがつくり上げたものですが、強調したかったのは、エドワードが書いているのは彼がスーザンと送った生活についての個人的な物語であり、スーザンが彼に対してしたと彼が感じていることを彼女に説明しているということです。
たとえば、フラッシュバックのひとつに、スーザンがエドワードの短編を読んで退屈し、彼がそのことに打ちのめされるという場面があります。そのとき彼女は赤いソファに腰かけています。これがエドワードの心の中に刻み込まれ、小説の中でスーザンを表している登場人物を殺すにあたって、彼はその死体を赤いヴェルヴェットのソファに置くのです。小説の中の殺し屋は70年代の緑のポンティアックGTOに乗っていますが、同じ車はフラッシュバックの場面の中で、スーザンがエドワードを捨てる場面で出てきます。一緒に暮らした頃の記憶がエドワードの虚構の小説の中にばらまかれているのですが、それはエドワードの心の中では明確に結びついているのです。

■同様に、わたし自身の人生からも多くのものがシナリオの中に入り込んでいます。個人的に胸を打つ主題のひとつは、わたしたちの文化における男らしさの探究です。われわれの主人公、トニーもエドワードも(両役ともにジェイク・ギレンホール)、わたしたちの文化が要求する男らしさの典型的特徴を持っていませんが、最終的に彼らは勝利します。テキサスで育った少年として、わたしは古典的に男らしい人間とはみなされず、そのことに苦しみました。わたしはトニーとエドワードのそんな側面を強調しましたが、わたしは彼らの辛抱強さに打たれたのです。

<脚本の完璧な世界をさらに肉付けしてくれる現実の瞬間と俳優の演技>

■脚本を書くことは映画づくりの過程でわたしが最も愛する部分です。孤独な作業ですが、その時点で映画はわたしの頭の中にしかないので、それは完璧な形と言えます。脚本を書くときわたしはキャラクターやいろんなイメージを集め始めます。インテリアやロケーション、登場人物の多様な世界、そこに住む人々などのイメージです。『ノクターナル・アニマルズ』で主人公たちが住むふたつの世界は、私にとってなじみのある世界でした。テキサスとニュー・メキシコで育った私にとって、西テキサスのパートは書きやすかったですし、スーザンが暮らすロサンゼルスの高級な世界もわたしには親しいものです。
すべての音とイメージを思い浮かべ、ショットごとにシナリオを書き進めました。実際に撮影に取りかかる頃には、撮影したいショットを細部に至るまで検討しつくしていました。しかし、強力な製作チームと強力なスタッフとともに仕事をするということは、思いもかけなかった自然発生的なことが撮影中に起こることでもあり、それは出来上がったものをいっそう豊かに、ニュアンスに富んだものにしてくれます。
撮影中は心をオープンにし、物事を新鮮な目で見ることが大事なのです。脚本を書いていた時に思い浮かべていたものと違っていても、現実の瞬間と演技の驚きが、映画の複雑さや深みを増してくれます。

<スタイルとセリフについて>

■映画をつくるときにスタイルは究極の目標ではありません。中身のないスタイルは空虚なものです。しかしそれでも、キャラクターと物語に関してスタイルには大いに注意を払います。セットやコスチュームは観客に情報を与えるだけでなく、俳優たちが役に入り込む手助けとなってくれる。トーンの一貫性がわたしにとっては重要で、スタイリスティックにとらえられたイメージが、音楽やサウンドデザインと相まって、一貫した世界観を生み出してくれるのです。思うに映画はサイレントで上映されるのがよく、言葉やセリフは物語を前に進めるのに必要なときだけ使われるべきなのです。
そうは言っても、私は長いセリフを書くとよく言われます。そんな風に思ったことはなかったのですが、それは多分、キャラクターとの間に絆をつくりたいという欲望のせいです。人生において会話ほどわたしが好むものはないので、知らず知らずのうちに、大量のセリフのある場面を散らばらせているのかもしれません。

<スーザンを演じたエイミー・アダムスについて>


■エイミー・アダムスは本当に偉大な女優です。スーザンというキャラクターが共感を得られるものであってほしいと望みました。スーザンを憎むことは簡単です、というのも彼女はすべてを持っていて、なおかつ不幸なのですから。彼女は自分の本当の性質とは真逆な道を選んでしまった。彼女はある意味自分が受けた教育、われわれの文化における女らしさなるものの犠牲者なのです。
映画の大部分のシーンでスーザンはエドワードが書いた小説を読んでおり、その小説に反応しているだけのキャラクターです。それこそまさにエイミーの女優としての信じがたい能力が際立つところです。彼女の演技は誠実で、スーザンの心の痛みに入り込むことができ、したがってわたしたちは彼女を憎むのではなく彼女に共感する。エイミーによるスーザンの描き方は繊細でニュアンスに富んでおり、大げさなジェスチャーや言葉に頼れないだけにむずかしい役柄でした。スーザンは複雑な感情が幾重もの層を成しながら、表面上は静かに落ち着いているというキャラクターなのです。



<ニ役という難しい役どころを演じたジェイク・ギレンホール>


■ジェイク・ギレンホールはエイミー・アダムスとうまくいくはずだと感じていました。二十代と四十代はじめの両方を演じて説得力のある、有名でしかも力のある俳優を見つけるのは難しいことです。ジェイクとエイミーにはその能力があり、若い自分とより成熟した自分の、身振りや口ぶりの些細な変化は見事なものでした。彼らはじつに素晴らしくやってのけました。これはタフで大変な役ですが、ジェイクなら素晴らしい仕事をしてくれるだろう、期待を裏切らない確信がありました。
毎日仕事に来るのが楽しくなるような、素晴らしい才能豊かな人と仕事をすると何度でもそれを繰り返したくなる。わたしはまだまだまだたくさんの映画をそうした俳優やスタッフとつくりたいと思っています。
                                   
                      


                               ノクターナル・アニマルズ
                               NOCTURNAL ANIMALS



■Staff&Cast

監督/脚本:トム・フォード
出演:エイミー・アダムス/ジェイク・ギレンホール/マイケル・シャノン/アーロン・テイラー=ジョンソン/アイラ・フィッシャー/アーミー・ハーマー/ローラ・リニ―
2016年アメリカ(116分)
配給:ビターズ・エンド/パルコ
11月3日(金)からTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
(C)Universal Pictures

■トム・フォード監督 TOM FORD

1961年8月27日、米テキサス州オースティン生まれ。ニューヨーク大学で美術史を専攻し、編入したパーソンズ美術大学では建築を学ぶ。在学中に俳優を志し、スタジオ54でアンディ・ウォーホルらと親交を深めファッションやアートの世界にも傾倒。その後ファッション業界で才能を発揮して、94年にグッチのクリエイティブ・ディレクターに就任。2000年にはイヴ・サンローランとグッチグループ全体のクリエイティブ・ディレクターに就任。05年、自身の名を関したファッション・ブランドを設立。
一方、05年には映画制作会社フェイド・トゥ・ブラックを設立。09年に『シングルマン』で映画監督デビュー。第2作が今回の『ノクターナル・アニマルズ』。





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